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公費解体家屋の材を残す

材を残したいけど、業者さんに言い出せない・・・


前回の記事のあと、「建物の本格的な解体にはまだ時間はある」と自分を言い聞かせ、まる1日現場を離れていました。


それでもやっぱり気になってしまうのが、人間のサガ。


解体開始3日目のお昼頃、おうちに立ち寄るとお母さんはおらず、納屋の瓦を下ろす作業がすすめられていました。


「まだもう少し、時間はある」

呪文のように唱えてぼんやりと午後の時間を過ごし、夕方ふたたび通ったら、もう納屋は崩れ落ちていました。





猛烈なスピードを受け入れられないまま、思考停止。

諦めの気持ちで、金沢に住む建築士の橋本さんにもご報告の写真を送りました。


するとすぐに橋本さんからお電話が。


橋本さん「解体業者さんって、何時頃から作業はじめるかご存知ですか?」

私「おそらく、8時頃かと」

橋本さん「じゃあ、明日の早朝に伺いますね」

私「……えっ?」

橋本さん「今なら柱も取り出せるかもしれませんから」

私「…(ヒーローですか?)」


橋本さんの姿勢に、ハッとさせられました。


そうだ。崩れてるからこそ手で救えるじゃん!

初心にかえり、この際、たとえ泥棒と間違われてもいいから救えるものは救おう!

そう意気込んでいたところで、再び電話が鳴りました。


今度は、家主のお母さんから。


家主さん(電話)「あんた、木材を残して、使えたらって言ってくれとったやろ」

私(電話)「はい!でも、崩れちゃいましたね…」

家主さん(電話)「さっき、解体業者の人話しとってんけども」


と、どうやら、崩した納屋を見ながら、業者さんと家主さんがお話なさったようで。


解体業者さん「この納屋、いい材、使っとるねえ」

家主さん「そうけ?使えるんやったら使いたいって話もあってんけど」

解体業者さん「どれを残したいか言ってくれれば、今なら重機で取り出しておいとくこともできるよ!」


私(電話)「・・・えっ!?」


なんと、残したい材をお伝えすれば、捨てずによけておいといてくれると、業者さんから提案があったそう。

あれほど「言い出せない」と、モジモジしていた自分の情けなさよ・・・。



そうこうして、建築士の橋本さん、業者さん、そして家主さん。

みなさんの優しさと快い了解のもと、手と重機で救い出した柱たち。





橋本さんに教えていただいたのですが、能登ヒバで、

家の材と違って真四角には切り出さず、木材をあますことなく最大限いかした形は、少し角丸。

無骨だけどそれが愛しい。


家が崩れた際に、どうしても傷がつくし、柱としての形が残っていないものもあります。

いく先は未定だし、正直、建築物に生かせるのかどうかもわかりません。


けれど、いつもそこにある「帰る場所」だった建物と空間が、突然一生を閉じることになってしまったその終焉に、たとえ1本の柱でも、次への可能性を残せたこと。

それは、私たちにとって、本当にほんとうに、大きな一歩でした。


さらに、公費解体を担う業者さんの方から、お声がけがあったこと。

業者さんと一緒に協力し合えたことは、材を救うことと同じくらい私の心を救ってくれました。



ありがとう橋本さん・・・



災害を機に消えていく家や蔵といった建物が、材という形に変わり継がれていく。

残った材を通じて、その背景にある物語が紡がれていく。


この先、その物語がどう広がっていくのか、今は全くわかりません。

でも、この活動をつづけていこう。そう心にきめた、できごとでした。

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